統合失調症を含む精神疾患の病態に関与する網羅的rare variantsの探索

研究代表者;東京都精神医学総合研究所 統合失調症・うつ病プロジェクト 糸川昌成
研究分担者;東京都精神医学総合研究所 統合失調症・うつ病プロジェクト 新井誠
研究協力者;東京都精神医学総合研究所 統合失調症・うつ病プロジェクト 市川智恵、宮下光弘

本研究の目的は、次世代シーケンサーを用いたパーソナルゲノム解析により、比較的大きな効果のrare variantを同定し、それをプロトタイプとして一般的な多型へ敷衍し、統合失調症を含む精神疾患の病態を明らかにすることである。common variant-common disease仮説を前提とせず異種性を念頭においた研究を進めるので、大きな遺伝子効果を共有する小規模で均一な統合失調症サブグループの解明を目標とする。研究期間内に複数のサブグループを明らかにし、共通病理の解明もめざす。

我々は、連鎖研究からポジショナルに有望とされた遺伝子のresequenceを行った。その結果、glyoxalase1のexon1にadenineが挿入されたframeshiftを同定した。症例の末梢血リンパ球ではmRNA、タンパクの発現、酵素活性ともに健常者の50%まで低下していることを確認した。当該症例ではglyoxalase1の基質であるカルボニル化合物がメイラード反応を経て生成するadvanced glycation endproducts (AGEs)が健常者の3倍に増加し(カルボニルストレス)、AGEsの生成阻害に動員されるピリドキサール(vit B6)が健常者の18%まで低下していた。この症例以外にもAGEsの蓄積が統合失調症には発生しているのか検証するために、統合失調症患者45例、健常者61例の末梢血を用いてAGEsを測定したところ、患者群で有意なAGEsの蓄積を認めた (P <0.0001;OR = 25.81) (Arai et al. Arch Gen Psychiatry 2010)(図)。50%酵素活性低下という大きな遺伝子効果をもたらすframeshift変異の症例をプロトタイプとして、カルボニルストレスという比較的均一な病態の一群を同定した成果であり、本研究はこうしたアプローチをすすめて統合失調症の病態解明を図る。

本研究は、東京都精神医学総合研究所および共同研究施設の倫理委員会に承認され、被験者には研究の説明と文書による同意を得て行われた。


図 統合失調症患者と対照の末梢血におけるAGEs(pentosidine)とビタミンB6( pyridoxal)濃度
(A) pentosidine濃度(ng/ml)、(B) pyridoxal濃度(ng/ml)。 Arai et al. Arch Gen Psychiatry 67:589-597,2010より一部改変引用